Five Under

ぬるぬる生きてます。
 
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【2011.01.09 Sunday 】 author : スポンサードリンク | - | - | - |
『 HELLSINK ♯01 』
 窪んだ空には浮き出た月よ。
 落ちて来たのは彼方から。
 昇って来たのは此処路(こころ)から。

 流した涙は幾星屑、
 零れた血潮の天の河。

 止まるべくならいざ知らず、
 奔り惚けてまた明日。

 病(や)めて誉(よ)して茶話(さわ)らないで。
 あぁ、世知辛いや世知辛い。
 せめて笑って澄まそうか。

 重く影落ちた夜でさえ、ずらり列んだ街灯とこんなにも満ちた月の下じゃ、恥じらい知らずに皺の一つさえ晒け出す。まあるい光の膝元で、小さな少女は静かに仰ぐ。
 身形は血の色と謳うには厭らしい、真紅に染まったケープコート。同色合わせたボンネットから下りた金糸髪の双房を風に浮かせ、並んだガラスの蒼玉にとろけた月を写し込む。見様は歳経ち数えねども、凛とした顔立ちはまた愛らしさにも美しく。少女のいでたる様は往年女優の淑女のように。血を通わせぬ生気に満ちた、まさに人形の端正さ。
「真紅!おい、真紅!」
 少女の肩背より少年の声。見れば淡い輝きを放つ人工精霊ホーリエが、まるで蛍火のように浮いていた。
「……まったく。うるさい下僕ね。怒鳴らなくても聞こえているわ」
 苛立たしく閉じた瞳に溜息のせて、真紅はゆっくりと目蓋を開く。
「月を見ていたの」
「はぁ!?」
 真紅の言葉に、通話を担うホーリエから呆れたような不満が漏れる。
「しっかりしてくれ真紅!!おまえだけが頼りなんだぞ」
「言われなくてもわかっているわ」
 もう一度、暗く窪んだ空の真ん中に落ちた、真っ白な月を見上げる。
「けれど、今夜はあんまりに綺麗な月だったから」
 その手に掴もうかと伸ばした腕の、袖に覗けた手首には、節目を飾った球体関節。


『第一話 トリック・ガール』


 二週間ほど前、インターネット上に奇妙な書き込みが流れた。
 曰く、『夜の公園で駆け回るヌイグルミを見た』、『夜中にどこからか少女の歌声が聞こえてくる』と。目撃例は多々あれど、どれしも一貫して似ていた。夜の街、動くヌイグルミ、少女の歌。まるでC級ホラーのシナリオだ。始めは馬鹿にしたものであったが、日が経つにつれ同様の書き込みが次第増えていく一方に、桜田ジュンが興味を持つにはそう時間は掛からなかった。

 この数日において、巡回の警察官が姿をよく見せる。日が昇る内においてはそれとなくであれ、夜ともなれば角を曲がれば出くわすほどか。もっとも、そんな事は引き籠もりを日夜常行くジュンにとっては大した話では無かった。実のところ、警察が動いたのはそんな噂話の真偽を定める為では無い。彼等とてそれ程暇を持て余しているわけでもあるまい。噂が広まったと同時期にある事件が起きだした。行方不明者が何人も出ているのである。
「大丈夫なのかしら真紅ちゃん」
 扉の向こうから、ジュンの姉である桜田のりから心配の声があがる。
「心配ないだろ。あいつは誰よりも慣れてるだろうから」
 言葉通りに彼は、本当に心無さそうにパソコンのモニタを見つめたまま告げる。
「もうジュンくんてば。最近は物騒なんだから、女の子の一人歩きなんてさせちゃ駄目よぅ」
 ジュンは振り向くと、扉に向かってボールを投げつける。驚いたのりの悲鳴が聞こえた。
「うるさいな!!出て行ったのはあいつの勝手だろ。とっととどっか行けよブス!!」
「ご、ごめんね」
 苛立ちにどなりつけると、のりは一言謝り離れていった。
「フン……すっかり気分が害されたじゃないか」
 彼は再びモニタに向き直ると、画面に映った少女を見つめる。

「本当にいい夜ね」
 月光を受けながら、真紅は歩く。その後ろをホーリエが彼女を眺めるように後を着く。
「こんな月の下でお茶会を開くのも悪くないわ」
 彼女の向かう先には、明かりが漏れる公園が見えた。
「静かで本当にいい夜」

 公園の真ん中には、夜だというのに浮かれた声と多くの影が踊っていた。種衆様々な動物を模したヌイグルミたちが輪を繋ぎダンスを踏む。
 その中心で少女は歌う。流れる声は甘いほどにかわいらしく。桃色のワンピースが彼女の幼い容姿によく似合っている。大きなリボンを頭にのせて、ロールを巻いた薄茶の髪が翻るたびにふわりと揺れた。
 ヌイグルミ達の運ぶお盆にはケーキやお菓子とジュースを並べている。彼女達は楽しいパーティーの最中であった。
「もうやめて雛苺っ」
 叫ぶ声に雛苺は歌を止め、目の前の少女を見つめる。そこにはベンチに腰掛けたセーラー服の女の子が、苺轍で体を縛り付けられていた。
「どうしたのトモエ?」
「お願いだから、もうやめて雛苺」
 彼女の言葉を理解出来ないと言うように雛苺は首を傾げる。
「トモエは楽しくないの?嬉しくないの?」
「私は……」
 柏葉巴はそれ以上は口を噤む。自分には否定をする事は許されないと。それは、巴が雛苺の心を裏切ってしまった事が彼女を苛むせいだ。
「雛苺は今とっても楽しいもの。トモエと二人で、ずっと一緒に過ごすのよ」
 雛苺は巴の手を取ると綺麗な緑瞳で彼女を見つめる。とても澄んだ純朴な瞳だった。
「だから二人で遊びましょう。遊んでトモエ」
 雛苺は純粋過ぎた。それ故に狂気じみていたものだ。幼い残酷さに巴は息を飲む。
「いい加減になさい雛苺!」
 楽しい宴は突如、厳しく響いた声に邪魔された。見れば、真紅が不機嫌な顔を立てていた。
「うゆ?あー、真紅だぁ」
 ころころと転がるような笑顔を投げて雛苺は大きく手を振った。彼女が飛び跳ねる度に、スカートの縁がふわふわと浮く。
「真紅も一緒に遊びにきたのね」
「残念だけど雛苺。私はあなたの邪魔しにきたの」
 真紅は人形達の輪を一瞥する。それを巡るように倒れた人、人、人人人。
 顔を、腕を、胴を、足を。猫へ、犬へ、兎へ、熊へ。まるで愛玩人形のような愛らしい姿へ変化していく者達を、まだ人として言えるのかは定かではないが。
「ちょっとおイタが過ぎたわね。まったく、こんなにも散らかして。まだ貴女にはちゃんと躾をしてあげる者が必要だわ」
 真紅の腕に振るわれて赤い花弁が舞い上がり、巴を絡んでいた苺轍を切り裂いた。
「お遊戯の時間はもうおしまい。さあ、お片付けをなさい」
「Nom!!」
 力いっぱいの声で雛苺は否定する。真紅は怒った顔で雛苺を睨んだ。だが怯えながらも雛苺は意思の強い瞳で返す。
「諦めさない雛苺」
「イヤ!もっと遊ぶの!」
 雛苺の瞳から涙が零れる。悲痛に叫び続ける雛苺を巴もまた悲痛な瞳で見つめていた。
「やっと本当の友達を見つけたの!もっと沢山巴と一緒に居るわ!」
「聞きわけのない子ね。だったら少しお仕置きをしてあげないと駄目ね」
 真紅はステッキを掲げると雛苺へ向けた。雛苺はビクリと体を震わせる。
「もう泣いても駄目よ。貴女の我が侭をこれ以上見過す事は出来ないわ」
 ゆっくりと真紅は雛苺に詰め寄る。一歩進めば雛苺も応じるように一歩下がる。一歩、また一歩と下がり続け巴が座るベンチに背が詰まる。
「真紅の……真紅のバカ!真紅なんてキライ!」
 雛苺の怒りに反応して、ヌイグルミ達が飛びかかる。愛らしいその姿のままに迫り来る彼等は、やはりなんとも質の悪いホラー映画のようだ。しかしそれを真紅は難無く避けていく。頭から体当たりしてきた熊をかわし、手にしたステッキで犬や猫の腕を弾き、薔薇の花弁で兎を追い返す。そしてどれもを軽くいなし、決して強く傷つける事はしない。だがそれでは、人形達を倒す事も出来ず。
「流石に数が多いわね」
 ぐるりと真紅を囲うヌイグルミの輪は次第狭まりをみせる。何度と迫り来る彼等に、未だ劣勢ではなくとも真紅の顔に軽く焦燥が浮かぶ。
「少し強引な手だけれど、悪く思わないでね」
 一転、花弁を舞わすと周りのヌイグルミを全て弾き飛ばす。真紅は飛び上がり、そのまま雛苺へと向かう。
「さあ覚悟しなさい雛苺」
「いやぁぁ!」
 だが、小さく縮こまる雛苺を庇うように腕を広げ巴は立った。
「貴女……」
 静かに降りた真紅は、立ち止まると彼女を見つめる。
「お願い、もう止めてあげて」
「トモエ?」
 泣き顔の真っ赤な目で見上げる雛苺を、巴は強く抱きしめる。
「ごめんなさい雛苺、私が悪かったの。これからはいつも一緒に居てあげる、一緒に遊んであげるから。だからもう止めましょう」
 雛苺の頭を撫でると、雛苺は堰を切ったように大声で泣いた。
「ごめんなさい。ごめんなさいトモエ。雛苺が悪かったのよ。トモエが私と居てくれるなら、もうやめるわ。だから許して」
「大丈夫よ。私は怒ってなんか居ないから」
 心底愛らしいと優しい表情で巴は言う。
「嬉しい。ありがとうトモエ」
 そんな彼女達を見て、真紅も声を静めて呼びかける。
「さあ、雛苺。人間達を元に戻しなさい」
 雛苺は頷くとヌイグルミ達に手をかざす。すると、彼等を苺轍が包み込み、解けた後には倒れた人の姿が出てきた。
「ようやく終わったな」
 今まで傍観を続けていたジュンの声が届く。しかし真紅はかぶりを振った。
「いいえ、まだだわ」
 ドサリと音を立て巴が倒れる。その顔は真っ青に荒い息を吐く。
「トモエ!?どうしたのトモエ!!」 
「力の使い過ぎよ。やはり限界がきたのね」
 真紅の言葉に雛苺は驚きに目を見開く。
「雛苺。貴女が無理に力を引き出したせいでその子は消耗し過ぎているわ。そのままでは死んでしまうわよ」
「いやぁ!そんなのダメ!!」
 巴をきつく抱きしめる。雛苺の必死な叫びに、雛苺と巴を結ぶ指輪が砕けた。
「ひな……いちご……」
 契約の指輪が砕けた事で、多少に呼吸を落ち着かせた巴が雛苺の名を呼ぶ。
「いいの。もういいのよトモエ。雛苺には、トモエが何より大事だもの」
 二人は強く抱き合うとお互いを感じ合う。契約に縛られずとも、二人には確かな絆があった。
「それじゃあ雛苺」
 呼ばれて雛苺は真紅の元へと歩みを進める。巴は雛苺の名を叫ぶ。二度と手の届かない所へと行ってしまうと巴は感じたから。
「大丈夫よトモエ。雛苺はもう独りぼっちではないもの。もうお話が出来なくなっても、トモエは私と居てくれるかしら」
 笑顔で振り返る雛苺に、巴は涙を溜めて頷く。
「まったく貴女は、話は最後まで聞きなさい」
 不思議そうな顔を浮かべた雛苺は、続く真紅の言葉に心底驚いた顔を見せた。


「ふぅ……」
 ジュンは疲れたように溜息を吐くとベッドに横になる。すればすぐに眠気に落ちていく。目が覚めた時に見慣れた鞄がもう一つ増えている事に眩暈と呆れを起こす事はまた明日に延ばしておこうと、彼はゆっくりと目蓋を閉じた。

【2008.01.13 Sunday 16:16】 author : りゅうと | Novel | comments(0) | trackbacks(0) |
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